B10vrk’s blog

日々三省

   仕事が先方の傷病の為にキャンセルになった為、急に暇になった。其処で予定を繰り上げて、遠出をする事にした。遊びである。

  平日とは言え週末の下り列車は存外空いていた。昼前だった事もある。出先までは途中、二度程乗り換えがあった。其の一度目の駅に至る車内での事である。

 「最近は皆、機械に支配されちまってるね、そう思うよ」

  ドアの前に立っていた自分の直ぐ目の前に座っていた老人が、前に立っていた、大学生位の女に話しかけていた。

「今じゃ何でも新しくなる、もうたった一年経つだけで何もかももう古くなって分からなくなるからさ。俺なんかも爺だから、皆馬鹿だって言うんだ」

  目を見ると、黒目が矢鱈に大きく見えた。雀色の上下は作業服で、けれども普段着であるらしく、目立った染みも皺もなくて、襟元は四垂れたてはいたが、パラパラ落ちた頭垢やら何やらは見当たらなかった。

  声量と早口の割には口許に泡も浮いていなかった。酔っている訳でもなさそうだった。

 

  女の方はと言えば、栗色に染めたきのこ頭に、白の丸襟シャツに緑のセーターだか何だかを来て、黒いスカートを履いていた。白く塗ったくった頬に紅を差していた。女の方の相槌は聞こえなかったが、ぎこちなくも一応お愛想程度には顎を動かしている様子だった。

  老人の早口はついさっき始まった様で、割れた画面でPixivの漫画を読んでいた自分は画面を閉じて様子を見守った。

  女と自分の年の差は大して無いだろうに思われた。けれども、きっと自分が吊革を掴んで立っていたとしても、彼は話しかけて来やしなかったに違いない。

  そうこうする内に電車は駅に停まった。其の若い娘は自分よりも一駅先に降車した。彼は競馬新聞もSPA!も持ってなかったし、足元には大関のカップもなかった。大学生が降りた後の車内は平日の午前中たらしく、居眠りする客もいなかった。

  老人はパイプに凭れてじっと床を眺めていた。眠る訳でも、唸る訳でもなく、只じっと床を眺めていた。

  自分は其の次の駅で降りた。喉が渇いて仕方がなかった。